緑と空色と。赤色と。
久しぶりに窓を開けて風を入れた。
「今日は空が綺麗だねぇ」
「川向こうの公園までで掛けましょうか」
ソファンは僕の家族の中で一番大人しい犬だ。
階段は先に駆け下りるけど、玄関に下りる前に座って待っている。
玄関を出た後もきっちり僕の隣を歩く。
ちなみに此れが末っ子のエリザだとこうはいかない。
階段を駆け下り、時に転がり、玄関でリードとじゃれ、ひたすらに僕を引っ張る。
エリザべスなんて高飛車そうな名前を付けたのが悪かったんだろうか。
ちょっと、後悔しない、でも、ない。
まぁ、名は体を表す、という奴だ。
「ねぇ、ちょっと失敗だったかな」
苦笑いしてソファンに尋ねたら、そんな事は無いと答えた。
彼女にはとても似合っていると。
「そうだよねぇ」
やっぱりお似合いだよねぇ、もう一度呟いたら今度はソファンが苦笑いした。
「あぁ、ほらやっぱり空が綺麗だよ」
川向こうの公園に着いて、ソファンも僕も水を飲む。
その後、いつものベンチに腰掛ける。
まだ子どもの楠木の影が出来るスペースだ。
ベンチに座って、ぐるんと顔を上向かせると緑と空色が半分ずつ見える。
だから少し顔を前に戻して、緑と空色を3対7にする。
うん、この位が良い。
「・・・あ。」
隣で伏せて休んでいたソファンが顔を上げて僕に、如何しました、と訊いた。
「カメラを忘れたよ、しまった」
あぁ本当だ、ソファンも少し驚いた様にそう呟いた。
「しまったよ、まったくしまった」
僕は頭を掻きながら呟く。
ソファンは一度空を見上げ、目を細め、僕の方を見て言った。
「また来ましょう」
また、晴れますから。
「うん、ただエリザに見せてやろうと思ってたのさ」
「あぁ、それで」
「アイツ置いて来てしまったからね」
僕等が散歩に行こうと言い出した時、エリザはピアノの足の支えに顎を乗せて寝こけていた。
起こすのも何だったので、其の侭2人で来てしまったのだ。
きっとアイツは僕等が家への最後の角を曲がるまでぐっすり眠っている筈だ。
「見せて自慢してやろうと思ったのさ」
歯を見せて笑うと、悪戯が苦手なソファンも笑った。
「さぁ、帰ろうか」
僕は立ち上がってズボンを少し叩く。
ソファンも立ち上がって一二歩足踏みの様に足を動かした。
「アイツに言ったらさぁ」
「はい」
「もしかして後でもう一回此処来るかなぁ」
「どうでしょうかねぇ」
多分、もう一度来る。
その頃には緑と赤色が3対7だ。
「また後でね」
そう呟いて公園を出た。
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